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そのほか8月の初放送番組
初回放送 8月28日(火) 22:15~23:45
チェコスロヴァキア(当時)のユダヤ人家庭に生まれ、20世紀史の荒波に翻弄されたチェンバロ奏者、ズザナ・ルージイチコヴァー(1927-2017)。昨年9月に90歳で逝去した彼女は、仏エラート・レーベルと契約し、史上初めてJ・S・バッハのチェンバロ作品の全曲録音を成し遂げた(1975年完成)世界的巨匠。しかし、一見華麗なその人生は、恐怖と苦悩の連続だった。10代にナチスの強制収容所(アウシュヴィッツなど3か所)で地獄を体験したルージイチコヴァーは、奇跡的に“生還”した後、社会主義国化した母国で長く自由を奪われた。番組は、最晩年のルージイチコヴァーへのロング・インタビューをまとめたドキュメンタリー。生い立ち、収容所での過酷な日々、作曲家ヴィクトル・カラビスとの幸福な結婚、共産主義下での苦難、チェンバロとの運命の出会い、そして何より、バッハへの深い愛……。ルージイチコヴァーが、穏やかに微笑み、また時に言葉を詰まらせ涙しながら語るエピソードの数々は、受難の中でも音楽を一心に愛し、鍵盤と向き合い続けた芯の強さを浮き彫りにする。彼女の愛弟子であるマハン・エスファハニ(チェンバロ奏者)やヴァーツラフ・ルクス(チェンバロ奏者&指揮者/古楽団体「コレギウム1704」主宰)らも登場。ルージイチコヴァーにまつわる豊富な写真資料や、その奥深くも鮮やかな演奏を収めた映像は必見。ナチスの暴挙や社会主義国の圧政を、インタビューや歴史的映像・写真を通して子細に伝える本番組は、音楽家ルージイチコヴァーの貴重な記録であると同時に、「時代の証言」としての重みも有している。
[出演]ズザナ・ルージイチコヴァー(チェンバロ奏者)
[監督]ピーター・ゲッツェルズ, ハリエット・ゴードン・ゲッツェルズ
[制作]2017年
初回放送 8月16日(木) 22:10~23:15
ローマの世界遺産、サン・ジョヴァンニ・イン・ラテラノ大聖堂で2011年11月に行なわれた「聖霊のハーモニー」コンサート。2013年に生前退位した教皇ベネディクト16世の発案で、歴史的に重要な文化遺産である教会の中で宗教音楽の伝統を継承する目的で行なわれた。サン・ジョヴァンニ・イン・ラテラノ大聖堂は、ローマの「四大バジリカ」のひとつに数えられる重要な教会。バジリカとは、宗教上の格式により定められた大聖堂のことで、ローマの他の3つは、サン・ピエトロ大聖堂、サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂、サン・パオロ・フオーリ・レ・ムーラ大聖堂。4世紀のミラノ勅令でコンスタンティヌス帝がキリスト教を公認して以来、14世紀までの約千年間、教皇庁はヴァチカンではなくここに置かれており、カトリックの総本山だった。現在もローマ教区の司教座であり、教会としてはヴァチカンより格上の存在。聖堂は16世紀以降に何度か修復され、現在のバロック様式の絢爛な装飾は1735年に完成している。番組では、聖ペテロと聖パウロの聖遺物(頭蓋骨)が収められているという教皇専用祭壇を始め、教会内の威厳に満ちた雰囲気もたっぷりとお楽しみいただける。歌っているのは、世界最古の聖歌隊とされるヴァチカンのシスティーナ礼拝堂聖歌隊。彼らの門外不出の秘曲だった「ミゼレーレ」を、モーツァルトが一度聴いただけで採譜してしまったというエピソードは有名。プログラムは、サン・ジョヴァンニ・イン・ラテラノ大聖堂の楽長を務めたジョヴァンニ・ダ・パレストリーナの作品を中心に、聖週間、クリスマス、聖霊降臨祭といった教会暦の1年を祝うさまざまな聖歌が、光のように降り注ぐ。これが初演と謳われている、システィーナ礼拝堂の楽長だった20世紀の宗教音楽家ロレンツォ・ペロージの「ペトロを使徒の務めにつかせたお方は」も、番組の見どころのひとつ。合唱曲と交互に演奏されるサン・ジョヴァンニ・イン・ラテラノ大聖堂のオルガンは、16世紀末に作られた貴重な楽器。19世紀末から約1世紀にわたり使用されない時期もあったが、1980年代に大規模な補修が施されてよみがえり、イタリアのルネサンス・オルガンの魅力である素朴で澄んだ音を伝えている。
[演目]グレゴリオ聖歌:されど我らことほがん、パレストリーナ:シオンでラッパを吹きならせ/今日キリストは生まれたもう/第5旋法のリチェルカーレ/第6旋法のリチェルカーレ/教皇マルチェルスのミサ曲~「キリエ」、グレゴリオ聖歌:キリストは我らのために従順であられた、ブルーナ:第2旋法による不協和音のティエント、ビクトリア:聖週間のためのレスポンソリウム集~「おお、すべて道行くものよ」、フレスコバルディ:トッカータ第2番、ペロージ:ペトロを使徒の務めにつかせたお方は、パレストリーナ:聖霊降臨祭の夕食をともにしている時/教皇マルチェルスのミサ曲~「グローリア」
[企画]クラウディオ・オラツィ
[指揮]マッシモ・パロンベッラ
[演奏]システィーナ礼拝堂聖歌隊、フアン・パラデル・ソーレ(オルガン)
[収録]2011年11月11日サン・ジョヴァンニ・イン・ラテラノ大聖堂(ローマ)
誰もが子供の頃に読んだであろう、アンデルセンの童話『人魚姫』。この名作は過去にも大家ノイマイヤーによってバレエ化されたことがあるが、今回の上演は、2017年にプラハ国立バレエが初演した新作。ブルー主体の照明、背景のアニメーションやCGも美しく、チェコを代表するバレエや映画音楽の作曲家、ズビニェク・マチェユーの音楽も詩的。ヤン・コデットの硬軟自由な振付ともども、バレエそのものがもつ抽象性とドラマの具象性が、丁度いいバランスを保っている。それは芸術性とエンターテイメント性のバランスと言ってもいいかもしれない。またダンサーたちの踊りのキレ、なめらかさ、安定感!鍛えられた技術から様々な情感が生まれ、この舞台のクオリティを一段高いものにしている。王子に初めて会った人魚姫が、彼の着ていたシャツを胸に躍る恋心のいじらしさ、その2人の踊りから放たれるロマンティシズム(背中を合わせてリフトした時の美しいシルエット!)、若者たちの潑剌たる宴、真っ赤なドレスの魔女のいかにも邪悪そうな身体の動き等々、見どころが満載。王子を殺すことができず、自らが泡となって消えていく、人魚姫の悲しくも美しい姿は切なく胸に迫る。
[振付]ヤン・コデット
[音楽&音響]ズビニェク・マチェユー
[台本]ヤン・コデット、マルティン・ククチュカ、ルカーシュ・トルピショフスキー
[原作]ハンス・クリスチャン・アンデルセン
[演出]SKUTR(マルティン・ククチュカ、ルカーシュ・トルピショフスキー)
[指揮]アンドレアス・セバスティアン・ヴァイザー
[演奏]プラハ国立劇場管弦楽団、シモーナ・ホウダ=シャトルロヴァー、カテジナ・インドロヴァー・ジトコヴァー(歌)
[出演]マグダレーナ・マチェイコヴァー(人魚姫)オンドジェイ・ヴィンクラート(王子)荻本美穂(祖母)ミヒャエラ・ヴェンゼロヴァー(魔女)マティアス・ドゥヌ(セラフィム)渡部綾(王女)マレク・スヴォボドゥニク(王)アリス・プティ(若い魔女)ジョヴァンニ・ロトロ(愛人)ミヒャエラ・チェルナー(女王)ダディヤ・アルテンブルク=コール(灯台守)プラハ国立バレエ団
[収録]2017年9月28日プラハ国立劇場(チェコ)