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2月のオペラ
今こそ見たいルネ・フレミングのオペラ
初回放送2月1日(土) 21:00~23:50
第二次大戦中の1942年に初演されたR・シュトラウス最後のオペラ『カプリッチョ』は、オペラにおいて言葉と音楽のどちらが優位かという普遍的テーマが、音楽家フラマンと詩人オリヴィエから求愛を受ける伯爵の妹マドレーヌの姿を通して描かれる。マドレーヌ伯爵夫人を当たり役とするルネ・フレミングをはじめ、これ以上望めない豪華キャストも見どころ。クリストフ・エッシェンバッハ指揮のロマンティックな音楽作りも素晴らしく、コンサートでも単独で演奏される有名な「月光の音楽」は、ウィーン・フィルならではの美しいアンサンブルが必見。
<来日記念>ファビオ・ビオンディ&エウローパ・ガランテ
初回放送2月15日(土) 21:00~23:50
イタリアのナポリ楽派の作曲家で、わずか26歳の若さで夭折したジョヴァンニ・バッティスタ・ペルゴレージは、18世紀前半にオペラ・ブッファ(喜劇的オペラ)の基礎を築き、その後のモーツァルトやロッシーニに大きな影響を与えた作曲家として音楽史に名を刻んでいる。ペルゴレージ生誕300年を記念して行われたプロジェクト「TuttoPergolesiトゥット・ペルゴレージ(すべてペルゴレージ)」は、ペルゴレージの生地マルケ州イェージで彼の作品研究を長年行っているペルゴレージ・スポンティーニ財団が主導となり、彼の人気曲から上演機会の少ない作品まで、さまざまなオペラや宗教曲・器楽曲を取り上げ、世界的に大きな話題を呼んだ。1732年に作曲された『恋に陥った兄と妹』は、オペラ・ブッファの最初期に位置する作品であり、ペルゴレージ自身にとって初の成功作。現在では上演機会のきわめて少ない、忘れられた名作。物語はイタリアの2つの家族の、ちょっと複雑に入り組んだ恋愛喜劇。古楽の雄ファビオ・ビオンディ率いるピリオド・オーケストラ、エウローパ・ガランテが、メリハリの利いた鮮やかな色合いで描き出す。ビオンディはオーケストラ・ピットでもいつものとおりヴァイオリンを手に、弾き振り。歌手陣も古楽のエキスパート揃い。演出は現代への読み替え。映画『ローマの休日』でおなじみのスクーター「ヴェスパ」も登場するので、1950年代頃のイタリアと思わせる設定だが、音楽にも台本にも実に無理なくマッチしていて、ドタバタ恋愛劇が自然に楽しめる。
夏の音楽祭や春の復活音楽祭が有名なザルツブルクは、モーツァルトの生地。毎年モーツァルトの誕生日である1月27日をはさんで開催される「モーツァルト週間」は、国際モーツァルテウム財団が作曲家の生誕200年の1956年から開催している、すでに60年超の歴史を持つ音楽祭。2019年からはメキシコ出身の人気テノール、ロランド・ビリャソンが芸術監督に就任。近年は演出家としても活躍を始めたビリャソンだが、ここではプロデューサーとしてらつ腕を振るうべく、従来は「モーツァルト中心」だったプログラムを「モーツァルトのみ」に絞り、会場も市内各所に拡大して、いっそう充実したものに発展しつつある。番組はそのビリャソン監督1年目となった2019年の音楽祭から、モーツァルトが劇音楽を書いた『エジプトの王ターモス』をもとに再創造した舞台『タモス』の上演。『エジプトの王ターモス』は、1774年にウィーンで初演された5幕構成の芝居。モーツァルトはこの劇のために2曲の合唱曲と5曲の管弦楽曲(幕間音楽とフィナーレ)を作曲した。ここで上演されているプロダクションは、この芝居と音楽をもとに、スペインの演劇集団「ラ・フラ・デルス・バウス」の演出家カルルス・パドリッサが、『魔笛』や『ツァイーデ』など、モーツァルトの他作品の音楽も加えて、新たにオペラ風の劇作品として再構成したもの。原作は古代エジプトを舞台に、権力争いと男女愛、親子愛がせめぎ合う物語。戯曲の作者でモーツァルトに音楽を依頼したトビアス・フォン・ゲープラー男爵がフリーメイソンの会員だったこともあり、この戯曲にも『魔笛』同様にフリーメイソンの秘儀が隠されていると言われている。それゆえパドリッサの舞台にも、中央にでかでかとフリーメイソンの象徴であるピラミッド・アイ(プロビデンスの目)が設えられ、そこには演出上のさまざまな仕掛けも施されている。パドリッサの演出は、物語の骨格は変わらないが、紀元前3000年のエジプトを舞台にしたSFファンタジーという趣で、もちろん「ラ・フラ・デルス・バウス」お得意のアクロバット・ダンサーも起用され、伝統あるフェルゼンライトシューレに、新しい、スペクタキュラーな舞台が出現している。