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コロナショックで危機的状況にある舞台芸術を支援するドネーションやクラウドファンディング、都は「アートにエールを!東京プロジェクト」も

 前回の記事でも書いたように、2月末より本格化した新型コロナウイルス感染拡大防止対策の影響で、集客によって成り立つ興行界は未だかつてない危機を迎えている。芸術家たちを助けようにも今はまだ劇場に足を運ぶことは叶わないが、自宅にいながら行えるサポートはいくらでもある。今回は、舞台芸術分野における支援の方法をいくつか紹介する。文:クラシカ・ジャパン編成部 井手朋子   日本の舞台芸術を盛り上げるNBSも大打撃  4月下旬に予定していた〈上野の森バレエホリデイ〉の「第九」、代替えの「白鳥の湖」をはじめ、5月中旬のモーリス・ベジャール・バレエ団日本公演、6月の東京バレエ団ヨーロッパ公演も中止に追い込まれてしまった公益財団法人日本舞台芸術振興会(NBS)は、壊滅的な状況だと悲痛の声を上げている。同財団は2月末から3月上旬にかけてパリ・オペラ座バレエ団、3月下旬には東京バレエ団の「ラ・シルフィード」の公演を何とか行ったが、時期的に来場を控えた観客も多く、その額だけでも1億5千万円を越える見込みだと言う。  〈上野の森バレエホリデイ〉はオンラインで楽しめる「バレエホリデイ@home」として開催し、プレオープンした4月24日から29日までの6日間でサイト訪問者は15.6万人を記録した。しかしこちらは、あくまでNBSとダンサーたちの厚意によって成り立ったもの。NBSでは、現在購入済みのチケット代金の寄付を含む緊急支援を募っている。今回は積極的に情報発信しているNBSの例を参考までに取り上げるが、これは氷山の一角に過ぎない。国内における舞台芸術の灯を消さないためにも、ぜひドネーションに参加して欲しい。 購入済みのチケットで劇場をサポート  「巣ごもりシアター」と題し、4月10日よりバレエやオペラをはじめとした過去の公演記録映像を無料配信して私たちを楽しませてくれている新国立劇場も、5月8日にチケット払い戻しにおける寄附のお願いを発表した。新国立劇場に限らず、チケットの払戻しを放棄するとその金額分は寄附と見なされ、年間20万円まで税優遇(寄附金控除)を受けられるが、仮に1万円のチケットを寄付した場合は最大4,000円の減税となる。もともと行く予定だった公演のチケット代を寄付するというのは、最も自然な流れかもしれない。 こんな時こそクラウドファンディング  民間が運営するクラウドファンディングでも、札幌交響楽団のプロジェクトをはじめ、わずかながら支援の動きが始まっている。国内でクラウドファンディングを展開するREADYFORでは、新型コロナウイルス支援の専用ページを設け、飲食店から宿泊施設、ライブハウスまで、幅広く支援の間口を広げている。芸術分野では、支援対象が「演劇」と「歌劇/音楽劇」のみになってしまうものの、5月29日までコロナ禍から芸術を守りたい“#SaveArts”プロジェクトを実施。5月15日現在、支援総額は800万円に達する。READYFORは過去に日本フィルハーモニー交響楽団や西本智実&イルミナートフィルも活用しているので、今後さらに芸術関連のプロジェクトが立ち上がることを期待したい。  ほかにクリエイター支援に定評のあるMotion Galleryでは、舞台芸術に携わる出演者・クリエーター・スタッフ(個人、団体問わず)に対し、今後の活動に必要な資金を助成する舞台芸術を未来に繋ぐ基金「Mirai Performing Arts Fund」を実施中だ。8月25日まで寄付が可能で、すでに2,900万円集まっている。  5月1日に設立された民間基金「アーツ・ユナイテッド・ファンド(AUF)」も、困窮するフリーランスの芸術家とスタッフに向けて1人20万円を支援するプロジェクトを始動。寄付の募集期間は5月30日までで、助成金の応募は5月25日〜6月7日となっている。  どこに寄付すべきか決めかねている人は、ヤフー株式会社、日本最大級のふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」を運営する株式会社トラストバンク、公益財団法人パブリックリソース財団などが立ち上げた「コロナ給付金寄付プロジェクト」に寄付するという方法もある。こちらは政府から一律給付される特別定額給付金の10万円を、資金的援助を必要としている団体や企業、個人に寄付するというもので、5月15日の時点で300万円近くが集まっている。  なお、5月14日には、日本クラシック音楽事業協会や劇団四季、東京芸術劇場、彩の国さいたま芸術劇場、Bunkamuraなどが参加/賛同する「緊急事態舞台芸術ネットワーク」が立ち上がっている。支援希望者に向けた署名活動やクラウドファンディングの案内、支援を受けたい人向けの融資や助成金の案内などが紹介されているので、そちらも参考にしていただきたい。 地方自治体による個人向け支援も始動中  ここまでさまざまな支援の方法を見てきたが、地方自治体では独自にアーティストや文化芸術団体の支援事業を行っている。たとえば京都市では、5月17日までの募集で1件30万円のアーティスト支援を実施中で、東京都も5月15日より芸術文化活動支援事業「アートにエールを!東京プロジェクト」をスタートさせる。こちらはコロナによって被害を被った芸術家たちが自由にPR動画を制作し、制作者には出演料相当として10万円が支払われるというもの。募集の対象はプロとして活動するアーティスト、クリエイター、スタッフらで、ジャンルは問わない。 ※「アートにエールを!東京プロジェクト」は予定人数を大幅に超える申し込みがあったため、個人登録の受付は5月15日18時をもって一度終了しています(5/18追記) 行政による主な支援事業 東京都 アートにエールを!東京プロジェクト 長野県 頑張るアーティスト応援事業補助金 愛知県 文化芸術活動応援金ほか 京都府 文化活動継続支援補助金 大阪府 大阪文化芸術活動(無観客ライブ配信)支援事業補助金 鳥取県 アートの灯を守る!とっとりアート支援事業補助金 仙台市 文化芸術創造支援事業 横浜市 文化芸術に携わる団体・事業者に対する支援 金沢市 芸術文化振興緊急奨励金 名古屋市 ナゴヤ文化芸術活動緊急支援事業 京都市 文化芸術活動緊急奨励金 福岡市 文化・エンターテインメント施設への事業継続支援金

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外出自粛の今、Instagramで触れたいバレエダンサーたちのオフショット

 新型コロナウイルスの影響により、外出自粛となって人前で踊る機会を失ってしまったバレエダンサーたちは、いま自宅でどのように過ごしているのだろうか。お気に入りのダンサーのInstagramを覗いてみると、真面目なレッスン風景から思わずクスッと笑ってしまうユニークな動画まで、個性あふれるさまざまな投稿が公開されている。不自由な環境の中にあっても、思い思いに体を動かしているダンサーたち。今回は、今こそ見たい「バレエダンサーの素顔を知れるInstagramアカウント」を紹介しよう。文:クラシカ・ジャパン編成部 井手朋子   日々更新される若きバレリーナたちのユニークな投稿  2017年にボリショイ・バレエに入団した若きバレリーナ、スタニスラヴァ・ポストノワは、21万人のフォロワーを抱えるバレエ界の人気インスタグラマー。毎日のように行っている投稿は趣向を凝らしたものが多く、中には思わずクスッと笑ってしまうようなものも。 この投稿をInstagramで見る STANISLAVA POSTNOVA(@ruby.tear)がシェアした投稿 - 2020年 4月月12日午前10時05分PDT  2018年にマリインスキー・バレエに入団したばかりのダリア・イオノワも、魅せる投稿で私たちを楽しませてくれる。 この投稿をInstagramで見る Daria Ionova(@ionovaworld)がシェアした投稿 - 2020年 4月月24日午前8時45分PDT 世界的ダンサーは演出もユニーク  アメリカン・バレエ・シアターのプリンシパルであるダニール・シムキンは、普段は華麗な踊りをメインに投稿しているが、今だけはお茶目な創作バレエを披露してくれている。この機会にぜひチェックしたい。 この投稿をInstagramで見る Daniil Simkin(@daniil)がシェアした投稿 - 2020年 3月月22日午後12時09分PDT  かつてボリショイ・バレエで活躍し、日本にもファンの多いイワン・ワシーリエフも、Instagramでトレーニングの様子などを公開。中には妻でボリショイ・バレエ在籍のバレリーナ、マリア・ヴィノグラードワが登場するものもあり、プライベートが垣間見れるようで面白い。 この投稿をInstagramで見る Ivan Vasiliev(@vasiliev.art)がシェアした投稿 - 2019年 8月月26日午前8時33分PDT あの手この手でフォロワーを楽しませるイザベラ・ボイルストン  アメリカン・バレエ・シアターのプリンシパル、イザベラ・ボイルストンも、外出自粛の今は自宅から気分が明るくなるような動画を次々と公開してくれている。この笑顔に救われる人も少なくないはず。 この投稿をInstagramで見る Isabella Boylston(@isabellaboylston)がシェアした投稿 - 2020年 4月月27日午後5時27分PDT マリア・コチェトコワはロックダウン中でも新作を制作  英国ロイヤル・バレエ団、サンフランシスコ・バレエ団、アメリカン・バレエ・シアターを経て、現在はフリーとして活躍するマリア・コチェトコワも、自宅での練習風景などを投稿。「プライベートが垣間見れるオフショット」とは趣旨が違うが、4月5日から8日にかけてロックダウン中のコペンハーゲンで制作されたという動画も公開されている。 この投稿をInstagramで見る Maria Kochetkova(@balletrusse)がシェアした投稿 - 2020年 4月月28日午前7時14分PDT 元バレリーナのフォトグラファーによる美しくもリアルな投稿  サンクトペテルブルクに拠点を置く元バレリーナでフォトグラファーのダリアン・ヴォルコヴァは、その経歴を生かしてダンサーたちのリアルな姿を写し出している。現在は#StayAtHomeAndBalletのハッシュタグで、世界各国のダンサーたちの自宅での様子を公開中だ。 この投稿をInstagramで見る │ (@darianvolkova)がシェアした投稿 - 2020年 4月月28日午前3時06分PDT ワークアウトになりきり動画も  日本勢も負けていない。ヒューストン・バレエのプリンシパル加治屋百合子は、オルゴールの上で回るバレリーナを模したユニークな動画を公開。チャレンジ第2弾となるこちらの動画は10万回も再生されている。 この投稿をInstagramで見る Yuriko Kajiya/加治屋百合子(@yuriko_kajiya)がシェアした投稿 - 2020年 4月月4日午後6時50分PDT 名門バレエもウィットに富んだ投稿を  ユニークなポストをしているのは個人だけではない。サンクトペテルブルクのミハイロフスキー劇場は、自宅ならではのアイディア満載のパフォーマンス動画を公開している。 この投稿をInstagramで見る Михайловский Театр(@mikhailovskytheatre)がシェアした投稿 - 2020年 4月月5日午前7時29分PDT ほかにもいろいろ、注目のバレエInstagramアカウント ■マリア・コーレワ マリインスキー・バレエ ファースト・ソリスト ■上野水香 東京バレエ団 プリンシパル ■倉永美沙 サンフランシスコバレエ プリンシパル  自宅で踊る姿やトレーニングの様子を公開し、時には演出までこなしてしまうダンサーたち。バレエとInstagramは親和性が高いものなのかもしれない。 関連記事 トレーニングからメイク法まで、おこもり中の今だからこそ楽しみたいネットでできるバレエ体験 コンサートに行けない今、レクチャー動画や公演パンフレットで音楽の知識を豊かに リモート演奏や無観客コンサートだけじゃない、音楽業界が発信していること コロナショックの裏で音楽を届け続けるアーティストたち ドネーションからYouTube視聴まで、コロナ禍で揺れるクラシック音楽業界に私たちが今できること コロナショックで危機的状況にある舞台芸術を支援するドネーションやクラウドファンディング、都は「アートにエールを!東京プロジェクト」も

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トレーニングからメイク法まで、おこもり中の今だからこそ楽しみたいネットでできるバレエ体験

 新型コロナウイルスの影響で、世界人口の半数以上が外出禁止や自宅待機となっている今、アーティストたちは自宅からあらゆる方法でメッセージを発信し続けている。運動不足を解消するエクササイズやストレッチ、クッキング動画など、趣向を凝らした動画が数多く公開されているが、バレエ界を代表するダンサーたちもさまざまな動画で私たちを楽しませてくれている。そこで今回は、その中からいくつか気になったものを紹介しよう。文:クラシカ・ジャパン編成部 井手朋子   ピアノ伴奏付きの本格的なレッスン動画  アムステルダムに拠点を置くオランダ国立バレエ団は、「ONLINE BALLET BARRE」と題したレッスン動画を公式YouTubeチャンネルでこれまでに7本公開している。お手本となる動きを真似して練習してみようという趣旨のものだが、ピアノの伴奏に合わせて練習できる構成が好評で、「すべてのオンラインバレエクラスの中で最高!」「複雑な組み合わせではなく、テクニックに集中できる非常に包括的なクラス」といった感想が寄せられている。3月23日に公開されたシリーズ1本目は、これまでに44万回以上も再生されている。 マリインスキー・バレエからは2人がレクチャー  バレエレッスンだけでなく、中には自身が行っているトレーニングを紹介してくれるダンサーもいる。マリインスキー・バレエでファースト・ソリストを務めるマリア・コーレワは、3月下旬からYouTubeチャンネルでさまざまなエクササイズやトレーニングを公開。テクニックを習得するための効果的な練習やコアトレーニングの様子などを披露し、バレエ経験者でなくとも実践的なレッスンとなっている。運動不足になりがちな今、自分に合った方法で無理せずチャレンジしてみたい。  同じくマリインスキー・バレエ唯一の日本人ダンサーである石井久美子も、積極的にレクチャー動画を公開している。バレエの基礎知識をいろいろな例えを用いて紹介するビギナー向け動画をはじめ、身体の使い方や腹圧の重要性について解説する動画、これまでのリハーサルをまとめた動画、幕袖と正面から本番の様子を撮影した映像など、バレエファンにはたまらない動画が数多く公開されている。 パリ・オペラ座バレエ団は遠隔『ロミオとジュリエット』  2月末から3月頭にかけて日本公演を行ったパリ・オペラ座バレエ団も、3月17日以降は公演もリハーサルもなく、レッスンすら受けられない日々を送っているが、バレエ団のYouTube公式チャンネルにはさまざまな動画が公開されている。中でも目を引くのが、ダンサーたちが自宅から踊る『ロミオとジュリエット』だ。リモートならではのアイディア満載の動画で、息抜きとしてもオススメ。 ドロテ・ジルベールも自宅から優雅な踊りを  来日公演でジゼルを演じ、多くの観客を魅了した同バレエ団のエトワール、ドロテ・ジルベールも自宅で踊る様子をInstagramで公開している。こんな時だからこそ、自宅という特別な空間から届けられるパフォーマンスを楽しみたい。 この投稿をInstagramで見る Dorothée Gilbert(@dorotheegilbert)がシェアした投稿 - 2020年 3月月24日午前3時58分PDT  なお、ドロテは2018年発売のエクササイズDVD『パリ・バレエ・フィット』で初心者でもできる1日15分の簡単フィットネスを公開しているので、この機会にチェックするのも良いのでは? Kバレエ カンパニーも動画を配信  国内では、4月に入ってすべてのリハーサルを取りやめたKバレエ カンパニーを代表して、熊川哲也がコメントを発表。「バレエという文化は、今も昔もこのような災難の中でも人の心を癒やしてくれるもの」と話した。  熊川は動画の中で、今後はYouTubeの公式チャンネルでさまざまな取り組みを行っていきたいと話したが、その10日後にはファースト・ソリストの毛利実沙子がバレエのメイクについて解説する動画を公開。『コッペリア』のスワニルダや村娘など、可愛らしい役柄のメイクとシニヨンの作り方を披露している。  自宅待機を余儀なくされたダンサーたちは今、それぞれが自分たちのやり方で出来うる限りの表現をしている。こんな時だからこそ、個々が発信するメッセージを自宅でゆっくり楽しみたい。 関連記事 外出自粛の今、Instagramで触れたいバレエダンサーたちのオフショット コンサートに行けない今、レクチャー動画や公演パンフレットで音楽の知識を豊かに リモート演奏や無観客コンサートだけじゃない、音楽業界が発信していること コロナショックの裏で音楽を届け続けるアーティストたち ドネーションからYouTube視聴まで、コロナ禍で揺れるクラシック音楽業界に私たちが今できること コロナショックで危機的状況にある舞台芸術を支援するドネーションやクラウドファンディング、都は「アートにエールを!東京プロジェクト」も

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映画『マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット』が6月5日より全国順次公開

 男性が白鳥を演じる『白鳥の湖』、第二次世界大戦のロンドンが舞台の『シンデレラ』等、バレエの古典作品の新解釈で絶大な評価を得ている英国の振付家・演出家マシュー・ボーンにとっては12作目となる長編作品が『ロミオとジュリエット』。2019年に初演されたこの作品が早くも映画となり、日本では6月から上映されることとなった。  シェイクスピアの戯曲『ロミオとジュリエット』は、ルネサンス期のイタリア、ヴェローナが舞台で、キャピュレット家とモンタギュー家という対立関係にある二大名家に生まれた若い二人が恋に落ちるが、両家の対立ゆえ悲劇に終わる。この物語にプロコフィエフの音楽を使用したバレエ『ロミオとジュリエット』は、これまでにたくさんの版が生まれた。ラブロフスキー、グリゴローヴィチ、クランコ、ノイマイヤー、ヌレエフ、ベジャール、マクミラン、プレルジョカージュ、マイヨー等、錚々たる振付家が手がけ、それぞれ完成度も高い。  ボーンが作り出した『ロミオとジュリエット』の舞台は、近未来の反抗的な若者を強制する教育施設「ヴェローナ・インスティテュート」。厳しい管理下のもと、白い服を着せられた若者たちは、男女が厳然と分けられて自由を奪われ、投薬され、さまざまな虐待も受けている。ジュリエットは残忍な看守ティボルト(大きい! 怖い!)に目をつけられ怯えている。そんな施設に政治家の両親に見捨てられて入所してきたロミオは、施設が開催するダンスパーティでジュリエットと出会い恋に落ちる。  ボーンの作品は、大胆に原作から遠く離れた状況設定をしていても、誰にでも、もちろん原作を知らない人にでも物語をスムーズに理解することができる。若い男女はどんな状況下でも恋に落ちる、恋人たちは純粋に恋に生き心のままに突き進む、といった普遍的な真理が真っ直ぐ胸に刺さる。青白い光の中で踊る二人はイノセントで美しい。  『ロミオとジュリエット』は3日間の出来事を追っており、その短い時間で13歳のジュリエットが少女から愛に生きる大人の女性に変化するさまがよく語られる。このボーン版では、コーデリア・ブライスウェイト演じる過酷な環境のせいでどこか絶望しているジュリエット、パリス・フィッツパトリック演じる繊細な少年を感じさせるロミオは、どちらもこれまでにない新しいキャラクターで印象的だ。出演者の中には若いダンサーもたくさんいて、登場人物たちのリアルさ、ひりひりとした切実さが一層感じられる(スタッフも若手を起用しているとのこと)。  悲しい結末に向かいラストのダンスまで一気に突き進む、ボーン版『ロミオとジュリエット』の世界観をぜひ体験したい。文:結城美穂子(エディター/音楽・舞踊ライター)   マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット http://mb-romeo-juliet.com/ 6月5日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開 演出・振付:マシュー・ボーン 音楽:セルゲイ・プロコフィエフ ロミオ:パリス・フィッツパトリック ジュリエット:コーデリア・ブライスウェイト ティボルト:ダン・ライト マキューシオ:ベン・ブラウン バルサザー:ジャクソン・フィッシュ 2019年製作/91分/イギリス 原題:Matthew Bourne's Romeo and Juliet Cinema 配給:ミモザフィルムズ 配給・宣伝協力:dbi inc 筆者紹介 結城美穂子 Mihoko Yuki 出版社勤務を経てフリーランスのエディター/ライターとして活動中。クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。バレエ・ダンス情報誌『ダンツァ』元編集長。単行本・ウェブマガジン・公演パンフレットの編集と執筆、またオペラ、バレエの初心者向け鑑賞ガイドのレクチャー講師を務める。

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「チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲」に振付を施した『WIND GAMES』東京シティ・バレエ団が2020年7月に上演~気鋭の振付家、パトリック・ド・バナにインタビュー

事実上世界初演となる『WIND GAMES』  東京シティ・バレエ団は、2020年7月にチャイコフスキーの『ヴァイオリン協奏曲』に振り付けた作品を上演する。気鋭の振付家、パトリック・ド・バナによる振付で、すでに第1楽章は2013年2月にウィーン国立バレエ団、第2楽章は2017年5月に上海国立バレエ団により上演されているが、第3楽章を新たに東京シティ・バレエ団のために振り付け、全楽章を上演するという。ゲストにはボリショイ・バレエ団のプリンシパル、オルガ・スミルノワとセミョーン・チュージンを迎え、ヴァイオリニストの三浦文彰、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団が演奏する。この公演では他に、『レ・シルフィード』、『バレエ・コンサート』も上演される。  東京シティ・バレエ団のリハーサルのために来日していたバナからコメントをもらうことができた。 「この画期的な作品が東京シティ・バレエ団によって上演されることになった発端は、2019年3月にマニュエル・ルグリたちのガラ公演のために新作を作り、来日した時です。そこで出演されていたヴァイオリニストの三浦文彰さんとお会いしました。三浦さんは私の作品を気に入ってくださったのです。三浦さんとなにかできないかと考え、すでに第2楽章まで発表していたけれども未完成だったバレエ作品、チャイコフスキーの『ヴァイオリン協奏曲』の第3楽章を日本で作って上演してはどうだろう、ということになったのです。東京シティ・バレエ団が上演してくださることになり、こうして音楽作品、ヴァイオリニスト、バレエ団とすべて揃い、プロジェクトがスタートしたのです」 「東京シティ・バレエ団のパフォーマンスをこれまで見たことはありませんでした。けれども今回、オーディションをして出演ダンサーが決まり彼らと共に作っていく中で、非常に満足感を得ることができました。一緒に仕事ができて幸せですし光栄だと思っています。このバレエ団をとても愛しています。規模の大きいプロジェクトですが、やりきることができると確信しています」  作品タイトルは『Wind Games』という。この『ヴァイオリン協奏曲』を聴いて感じたイメージからつけたのだそう。 「チャイコフスキーの『ヴァイオリン協奏曲』からは、チャイコフスキーの祖国、ロシアの広大な大地を吹き抜けていく風を感じました。そこには遊牧生活をしている騎馬民族が勇壮に駆け巡っていて、馬がいて狩をするための鷹がいる。鷹は、空を飛んでいる時に風を使って翼を大きく広げたり滑降したりしている。そういう鷹の目を通して大地を見ているような感じがしたのです。ロシアの国章に描かれている双頭の鷲も思い浮かびましたね。そんな崇高な鳥が風とともに舞っているイメージから『Wind Games』とタイトルをつけたのです。すでに第2楽章までは上演してはいるのですが、第2楽章は、オルガとセミョーンのソリスト2人によるパ・ド・ドゥにするなど、今回ほぼすべて作り直しより良い内容にしました。ですから、全曲通して上演する東京シティ・バレエ団による公演が、事実上『Wind Games』の世界初演となります」  東京シティ・バレエ団は、音楽を大切に考えるカンパニーであり、それはウヴェ・ショルツ振付の『ベートーヴェン交響曲第7番』や同じくショルツ振付でメンデルスゾーンの『弦楽八重奏曲変ホ長調作品20』を使用した『オクテット』を日本初演し、大成功を収め大事なレパートリーとしていることからもわかる。さらに2018年の創立50周年記念『白鳥の湖』(藤田嗣治の美術)公演では、指揮に大野和士、オーケストラに東京都交響楽団を迎えて3日間上演した実績もある。ちなみにこれまたビッグ・ニュースだが、今回のソリストであるスミルノワ&チュージンのペアで、この創立記念で上演した藤田嗣治の美術による『白鳥の湖』が同じく2020年7月に上演されることが決定している。  2020年はベートーヴェン生誕250年であると同時に、チャイコフスキー生誕180年というメモリアル・イヤーでもある。バレエ・カンパニーとしてはむしろチャイコフスキーの記念の年であることを意識したいところ。偶然かもしれないがメモリアル・イヤーにチャイコフスキーの『ヴァイオリン協奏曲』が使われていることも話題性が高い。小品ではなく、ヴァイオリンのヴィルトゥオーゾを存分に堪能できる「ヴァイオリン・コンチェルト」に挑むのだから、しかも三浦文彰がソリストを務めるのだから、音楽ファンとしても非常に気になるところだ。  シンフォニック・バレエのレパートリーをこうして増やしていく東京シティ・バレエ団のチャレンジ精神がどのようなパフォーマンスとして結実するのか、まだ見たことのない新しいバレエ、新しいチャイコフスキーがとても楽しみだ。取材・文:結城美穂子(エディター/音楽・舞踊ライター)   「トリプル・ビル2020」 『WIND GAMES』/『レ・シルフィード』『バレエ・コンサート』 https://www.tokyocityballet.org/schedule/schedule_000558.html 日時:2020年7月11日(土)17:00/12日(日)14:00 会場:ティアラこうとう大ホール 上演演目: 『WIND GAMES』振付:パトリック・ド・バナ 『レ・シルフィード』演出:石井清子(ミハイル・フォーキン振付による) 『バレエ・コンサート』 出演: オルガ・スミルノワ(ボリショイ・バレエ団プリンシパル) セミヨン・チュージン(ボリショイ・バレエ団プリンシパル) 三浦文彰(ヴァイオリニスト ※『WIND GAMES』のみ) 芸術監督:安逹悦子 指揮:井田勝大 演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 筆者紹介 結城美穂子 Mihoko Yuki 出版社勤務を経てフリーランスのエディター/ライターとして活動中。クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。バレエ・ダンス情報誌『ダンツァ』元編集長。単行本・ウェブマガジン・公演パンフレットの編集と執筆、またオペラ、バレエの初心者向け鑑賞ガイドのレクチャー講師を務める。

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