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9月4日より再上映されるロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズンの『眠れる森の美女』、オーロラ役で出演する金子扶生さんにインタビュー

 9月4日(金)より全国公開の英国ロイヤル・オペラハウス・シネマシーズン、ロイヤル・バレエ『眠れる森の美女』。怪我をしてしまったローレン・カスバートソンに代わり、映画館中継の当日に急遽主役のオーロラ役を務めた金子扶生さん。見事に代役を務め、ひときわ華やかな存在感、エレガントで美しい踊りで観客を魅了しました。コロナ禍で沈んでいた私たちに大きな感動をもたらしてくれた新ヒロインの金子さんに、電話インタビューをしました。取材・文:森菜穂美(舞踊ライター)   急な代役での主演は初めてでプレッシャーの中踊った ──今回、映画館中継の当日に急遽オーロラ役に抜擢され見事な演技を披露されましたが、当初はリラの精を踊る予定だったところ、当日の午後に変更を伝えられた際のお気持ちはいかがでしたか?不安などはありませんでしたか?  こんな急な代役での主演は初めての経験でした。ここまでのプレッシャーを感じたのも初めてでした。火曜日の公演だったのですが、その前の土曜日にローレン・カスバートソンさんが一度『眠れる森の美女』のオーロラ役を踊っていて、その時も私はリラの精を踊っていました。1幕が終わってからローレンがあまり調子良くないと言っていて、それでも2幕を踊っていました。  この眠りでは2幕と3幕の間の休憩がないのですが、もう彼女が踊れないということになり、私はまだリラの精の衣装を着ていたのですが、ケヴィン・オヘア監督がオーロラを踊ってくださいと言って、その日は3幕だけオーロラ役を踊りました。その時もびっくりだったのですが、月曜日にはローレンさんは大丈夫ということで火曜日は踊る予定と監督からも聞いていたので、私はリラの精役に集中していました。  映画館中継公演の当日の午後2時くらいに、この日もローレンさんが踊れないとなったので、急遽パートナーと振りを確認することになり、振りを合わせてそのまま舞台に出ることになりました。普段は1カ月以上かけて練習して役の準備をするのですが、その時はもう1カ月以上オーロラ役を踊っていない状態だったので、不安で泣いてしまったりもしたのです。映画館中継もあったので、怖かったのです。でも出るからには気持ちを切り替えて思い切って舞台に立ちました。 ──王子役のフェデリコ・ボネッリとの共演はいかがでしたか?  フェデリコ・ボネッリさんとは、一度クリストファー・ウィールドンの『冬物語』で踊らせていただいたきりです。でも彼は本当に素晴らしいパートナーなので、安心して踊ることができました。 カンパニーのみんなの応援で頑張れた本番 ──今回の「眠れる森の美女」の映像を拝見すると、周りの共演者の皆さん、そして司会のダーシー・バッセルが扶生さんに対して見守る気持ちを込めていて、とても応援されているのを感じて、こちらもとても感動しました。舞台に立っておられた扶生さんも、同僚の皆さんからのサポートは感じられましたか?  カンパニーのすべて、みんながとても応援してくれました。いつもそうなのですが、皆さんいい人ばかりで、本当にそこに救われました。この舞台の前も皆さんはとても応援してくださって、急なことだったのに手紙やプレゼントも贈ってくれたり楽屋で応援してくれたり。これがないと踊り切れなかったと思います。  ダーシー・バッセルさんは面白い方なのですが、とても私を応援してくださっています。私が11月にオーロラ役のデビューをしたときにずっとコーチングをしてくださいました。役デビューが終わって一度バイバイ、という感じだったのですが、当日はいきなり私がオーロラ役になって驚かれていました。が、この当日もとても応援してくださいました。経験を積んでこられたバレリーナの方たちがこうしてコーチングしてくださるのはとても貴重だと思います。 最も印象的なシーンはローズ・アダージオ ──『眠れる森の美女』のオーロラ姫を演じて、ご自身で最も印象に残っているシーンなどはありますか?  『眠れる森の美女』の中では、やはりローズ・アダージオが一番印象的なシーンですね。登場するところからローズ・アダージオまでが一番大事というか、緊張します。いきなり舞台に出てきて、とても緊張するバランスがあり、体力的にも大変です。これを最初にしなければなりません。ここを踊るのを楽しめたら、嬉しいです。ローズ・アダージオは音楽が素晴らしくて、音楽を聴くだけで体が震えて、音楽に助けられました。  主役を演じる時、ずっと舞台に立っていたらだんだん体も慣れてくるのですが、オーロラ役は最初が見せ場なので、難しいですね。1幕は若々しい16歳の姫で、私のお誕生日パーティにようこそ、という感じです。友達と言っていたのが、「私の16歳のバースデーパーティーだ♡」、それくらいの楽しい気持ちで踊ります。  2幕はもっと繊細な感じで。舞台でははっきり見えづらいと思うのですが、この幕での衣装が大好きなのです。3幕は結婚式でかなりクラシックな踊りをします。体力的にも大変なバレエですが、特に1幕が一番体力的にきつい作品です。私も今回のこの中継の時には頭が真っ白になりました。だからお客様に応援していただくのが力になります。 自分の体に向き合った自粛期間 ──ロイヤル・バレエでは3月半ばに急に公演がキャンセルされて、ダンサーの皆さんは自粛期間に入っておられました。その間はどのように過ごされていましたか?  ロイヤル・バレエの舞台は3月にキャンセルされてしまったのですが、2週間後に『白鳥の湖』のオデット、オディール役のデビューの予定でした。ずっとこのオデット、オディール役を練習し続けていたのですが、急に劇場が止まってしまったのでかなりショックで落ち込んでしまいました。でもここでも立ち直って、狭い家の中でできる限りのことをしていました。  ピラティスといった家でできるいろんなことを見つけ、自分の体に向き合うようになりました。今までは踊って疲れてまた次の日になるという繰り返しの毎日だったので、この自粛期間で自分の体に向き合う時間ができましたね。いくつかの映像プロジェクトにも参加しました。 ──6月27日には、有料配信されたロイヤル・オペラハウスの無観客公演に出演されて、リース・クラークさんと踊られましたね。どのような気持ちで踊られましたか?  この公演ではマクミランの『コンチェルト』に出演しましたが、これも急に出演してほしいと電話がかかってきたのです。1週間ほど練習しました。3カ月間は家でだけで踊っていたので、かなりチャレンジングでしたが、楽しく踊ることができました。  ケネス・マクミランの『コンチェルト』はマスターピースで素晴らしい作品なので、正直なところを言うともう少し時間をかけて練習して、指導もしっかり受けてから出演したかったのですが、1週間でできることをやりました。でも本当に舞台に戻ってこられるだけで嬉しかったです。『コンチェルト』は、ジャンプや回転がたくさん入ったとてもハードな第3楽章は踊ったことがあったのですが、ガラっと違う美しい第2楽章は今回が踊るのがほとんど初めてでした。6年位前に日本で平野亮一さんと踊ったので久しぶりということになります。 ──ロイヤル・バレエでも徐々に稽古場に復帰することになるという報道を読みましたが、どのような予定になっていますか?  計画では、2週間後くらいに一度オペラハウスに戻ってこられることになっているのですが、まだクラス・レッスンが始まるだけの予定です。グループに分かれて少人数で練習をする計画になっています。 ──本作で劇場へ久々に足を運ぶ方も多いと思いますが、そんな日本のファンの方へ、金子さんからのメッセージをお願い致します。  コロナ禍などこのような暗いニュースがある中、そして劇場にも足を運べない中、少しでも映画館で劇場にいるような気持になっていただけたら嬉しいです。こうして応援していただけることでパワーをもらえます。本当に日本の皆さんにはいつも応援していただきありがとうございます。  おっとりとした上品な口調の中に、愛らしさと意志の強さが伝わってきた金子さん、今後ますますの活躍が期待されます。  英国ロイヤル・バレエの『眠れる森の美女』は、第二次世界大戦後の1946年に、ロイヤル・オペラハウスの再オープニングを飾った作品です。戦争で傷ついた人々の心を美しいバレエが癒し、英国の復興を後押ししました。コロナ禍で傷ついた私たちの心も、この素晴らしい『眠れる森の美女』で輝いた新しいヒロイン、金子扶生で癒されました。事態が落ち着いて、バレエが観られる平和な毎日となることが待ち遠しいです。 英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2019/20 『眠れる森の美女』 http://tohotowa.co.jp/roh/ 2020年9月4日(金)〜9月10日(木) 北海道 札幌シネマフロンティア 宮城 フォーラム仙台 東京 TOHOシネマズシャンテ 東京 TOHOシネマズ日本橋 東京 イオンシネマ シアタス調布 千葉 TOHOシネマズ流山おおたかの森 神奈川 TOHOシネマズららぽーと横浜 愛知 TOHOシネマズ名古屋ベイシティ 京都 イオンシネマ京都桂川 大阪 大阪ステーションシティシネマ 兵庫 TOHOシネマズ西宮OS 福岡 中洲大洋映画劇場 振付:マリウス・プティパ 追加振付:フレデリック・アシュトン、アンソニー・ダウエル、クリストファー・ウィールドン プロダクション:モニカ・メイソン(ニネット・ド・ヴァロワとニコライ・セルゲイエフに基づく) 音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー 指揮:サイモン・ヒューイット オーロラ姫:金子扶生 フロリムント王子:フェデリコ・ボネッリ 国王フロレスタン24世:クリストファー・サウンダース お妃:エリザベス・マクゴリアン カタラビュット:トーマス・ホワイトヘッド カラボス:クリステン・マクナリー フロリナ姫:ヤスミン・ナグディ 青い鳥:マシュー・ボール ~プロローグ~ 魔法の庭の精:マヤラ・マグリ 森の草地の精:クレア・カルヴァート 歌鳥の精:アナ・ローズ・オサリヴァン 黄金のつる草の精:崔由姫 リラの精:ジーナ・ストーム=ジェンセン   筆者紹介 森 菜穂美 Naomi Mori 舞踊ライター、翻訳。9歳までロンドンで過ごす。早稲田大学法学部卒業。企業広報、PR会社勤務、映画配給・宣伝、リサーチャーを経て、フリーランスに。おもにダンス・バレエを中心に取材、執筆および翻訳。新聞、雑誌や海外・国内のWEBサイト、バレエ公演や映画のパンフレットに日本語/英語で寄稿。映画字幕や書籍の翻訳監修も。監修した書籍に「バレエ語辞典」(誠文堂新光社)など。大人バレエを習いつつ、国内外で幅広く舞台鑑賞をしている。

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NBAバレエ団が8月23日に『NBA Ballet Grace & Speed ―ブルッフヴァイオリン協奏曲第一番 / ケルツ―』を上演

 もともと年間の公演数がそれほど多くない日本のバレエ団が、今年は公演中止を余儀なくされた。NBAバレエ団も5月の『白鳥の湖』、7月の『ジゼル』、8月の『ドラキュラ』と3公演も中止にせざるを得なくなり、ファンは寂しい思いをしていた。そんな中、8月23日の1日限りではあるが、ガラ公演を行い、久しぶりに元気なNBAバレエ団のパフォーマンスを披露してくれることになった。「with NBA」というファンクラブ会員に向けての、ライブ映像の配信も予定されている。  上演するのは『ブルッフ ヴァイオリン協奏曲第一番』と『ケルツ』の2作品。どちらも日本ではNBAバレエ団でのみ鑑賞できるバレエ団の大事なレパートリーだ。  ブルッフの『ヴァイオリン協奏曲第一番』は、ブルッフの代表曲でありヴァイオリン協奏曲でも人気の高い作品だ。3楽章から成るその作品をそっくり全曲振り付けたのは、クラーク・ティペット。元アメリカン・バレエ・シアター(ABT)のプリンシパルで、この作品はABTの人気レパートリーでもある。アクア、レッド、ブルー、ピンクという4組のペアのそれぞれの個性が際立つだけでなく、コール・ド・バレエのフォーメーションも楽しく、見どころ満載な作品だ。  『ケルツ』はライラ・ヨークの振付で2013年、NBAバレエ団により日本初演された。ヨークはポール・テイラーのカンパニーで活躍したのち、振付家として活躍し、各国のバレエ団に作品を作っている。ストーリはなく、ケルト音楽にあわせてアイリッシュダンスを踊りまくる。力強くリズムを刻むダンスは、いつまでも飽きることなく見入ってしまう。サンフランシスコ・バレエやバーミンガム・ロイヤルバレエもこの作品をレパートリーとしている。  2作品はどちらもアメリカの振付家による作品だ。日本ではアメリカの振付家による作品に接する機会に恵まれているとは言えない。芸術監督の久保綋一はかつてコロラド・バレエ団でプリンシパルとして活躍しており、19年間のアメリカでの活動が、アメリカ・ダンス界との関係を確固たるものにした。彼がNBAバレエ団の芸術監督に就任してから、アメリカ人振付家による作品が次々と上演され、またリン・テイラー・コーベット振付による『HIBARI』のようにNBAバレエ団のために作品も作られ、あっという間にNBAバレエ団の新しいイメージを作り上げることに成功した。エンターテインメント魂が根底にあり、踊る楽しさ、喜びが伝わるこれらの作品をレパートリーとして持っているのはNBAバレエ団の強みだ。  まだ先が見えない状況下、高いモチベーションをキープして日々研鑽を積んできるダンサーたち、彼らが今できること=日本では自分たちにしかできないレパートリーを披露する、というその心意気を応援したい。文:結城美穂子(エディター/音楽・舞踊ライター)   NBA Ballet Grace & Speed−ブルッフヴァイオリン協奏曲第一番/ケルツ− https://www.nbaballet.org/performance/2020/grace_and_speed/ 日時:2020年8月23日(日)19:00 会場:所沢ミューズ マーキーホール 「ブルッフ ヴァイオリン協奏曲第一番」 ブルー:三船元維/峰岸千晶 アクア:新井悠汰/竹内碧 レッド:刑部星矢/佐藤圭 ピンク:飛永嘉尉/野久保奈央 「ケルツ」 グリーン:新井悠汰 ブラウン三船元維/関口祐美 レッド:大森康正/竹田仁美 筆者紹介 結城美穂子 Mihoko Yuki 出版社勤務を経てフリーランスのエディター/ライターとして活動中。クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。バレエ・ダンス情報誌『ダンツァ』元編集長。単行本・ウェブマガジン・公演パンフレットの編集と執筆、またオペラ、バレエの初心者向け鑑賞ガイドのレクチャー講師を務める。

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7月31日より映画『剣の舞 我が心の旋律』が公開〜バレエ『ガイーヌ』の創作現場という視点で観ると…… 

 オーケストラ公演のアンコールや吹奏楽でもよく演奏される『剣の舞』は、実は『ガイーヌ』というバレエの中の1曲。しかし、現在このバレエが上演されることは殆どなく、『剣の舞』と、映画『2001年宇宙の旅』でも使用された『ガイーヌのアダージョ』など、幾つかの楽曲が知られているのみだ。  当初、『ガイーヌ』に『剣の舞』は含まれていなかった。『ガイーヌ』の初演直前、劇場側から終幕に勇壮なクルド人の踊りの追加を要求され、旧ソ連のアルメニア人作曲家アラム・ハチャトゥリアンが一夜にして作曲したのが『剣の舞』だ。  『剣の舞 我が心の旋律』は、作曲家と過去にトラブルがあった文化省役人との確執を通して、『剣の舞』を完成させる若きハチャトゥリアンの姿を描いた映画である。  なぜハチャトゥリアンの伝記ではなく、『剣の舞』の完成秘話なのか。監督のユスプ・ラジコフは、ハチャトゥリアンが私生活を公にしない生き方をしていたこと、そして『剣の舞』のエピソードには民族問題やイデオロギーなど、旧ソ連の人々が身近に感じられるドラマが含まれていると語っている。  文化省役人プシュコフや、作曲家が恋するバレリーナのサーシャ、従者的存在のゲオルギーなど、架空の人物も数多く登場するが、『ガイーヌ』の演出・振付を担当するニーナ・アニシモワは、キーロフ・バレエの往年の名ダンサー&振付家として日本でも知られる実在の人物だ。だからこそ映画でも描かれている、『ガイーヌ』を巡るアニシモワとハチャトゥリアンの軋轢は、バレエファンにとって興味深いだろう。  また、20世紀を代表するヴァイオリニストのダヴィド・オイストラフ、作曲家ドミートリイ・ショスタコーヴィチとトリオを組む、ハチャトゥリアンのチェロを弾く姿も楽しい。このシーンから、彼が音楽学校で作曲だけでなくチェロも学んでいたこと、そして1903年に生まれ、1978年に没したハチャトゥリアンと、ショスタコーヴィチ(1906-1975)やオイストラフ(1908-1974)が同時代の人間であることがわかる。  この映画を、バレエ『ガイーヌ』の創作現場という視点から観ると、ダンサーや演奏家、劇場スタッフなど、舞台に関わる多くの人たちの誇りと心意気に胸迫るものがある。劇場上演がままならないコロナ禍の今だからこそ、是非ご覧いただきたい映画だ。文:クラシカ・ジャパン 石川了   『剣の舞 我が心の旋律』 7月31日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開 https://tsurugi-no-mai.com/ 監督・脚本:ユスプ・ラジコフ 出演:アンバルツム・カバニアン、アレクサンドル・クズネツォフ、セルゲイ・ユシュケビッチ ロシア・アルメニア映画/2019年/原題:Tanets s sablyami /提供:ニューセレクト/配給:アルバトロス・フィルム

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