ノイマイヤーの『人魚姫』
The Little Mermaid(2011) San Francisco Ballet
1942年米国生まれ。ダンサーとして英国ロイヤル・バレエ学校に学び、所属したシュトゥットガルト・バレエ団で振付家に転身。フランクフルト・バレエ団芸術監督を経て、1973年より現在まで長きにわたりハンブルク・バレエ団芸術監督を務めるジョン・ノイマイヤーは、2015年に京都賞の思想・芸術部門を受賞。70歳を越えてもバレエの新たな表現を模索し続ける現代最高の振付家の一人です。
ノイマイヤー振付作品の特徴は、「名作文学のバレエ化」「古典バレエの新演出/新解釈」「音楽を視覚化するシンフォニック・バレエ」。この『人魚姫』はアンデルセンの同名童話をバレエ化した「名作文学のバレエ化」で、アンデルセン生誕200年の2005年にデンマーク王立バレエで初演され、その後振付家自身による改訂版が2007年ハンブルク・バレエで初演。この番組は、そのハンブルク版をサンフランシスコ・バレエが上演した2011年公演です。
報われない同性愛に苦悩するアンデルセンの想いが人魚姫となり、人魚姫の悲しい物語が、彼女に常に寄り添う詩人(アンデルセン)と共に綴られていきます。群青の海底を長い尾ひれの人魚姫が優雅に舞う美しさ、尾ひれが人間の足に変わるときの異様な凄まじさなど、ノイマイヤーの舞台造形と素晴らしい振付の数々は必見。成就できない恋の辛さと哀しみが、ここまで純粋に表現されたバレエは今までなかったのではないでしょうか。
人魚姫にはサンフランシスコ・バレエ団プリンシパルのヤンヤン・タン。細い体と美しい脚、京劇のような顔が人魚姫そのもの。詩人を演じたのは、ハンブルク・バレエからの客演ロイド・リギンス。人魚姫と海の魔法使いのメイクは歌舞伎を真似たもの。衣裳は日本の長袴からインスピレーションを受けたそうです。
音楽は、ロシア出身で現在ニューヨーク在住の女流作曲家レーラ・アウエルバッハの新作。まだ30代の彼女は、作家としてノーベル文学賞にノミネートされたマルチな才能の持ち主です。『人魚姫』は彼女にとって初めてのグランド・バレエ作品。
古典のような綺麗なだけではない、人間の血が通ったリアルな感情表現。バレエとはこんなにも素晴らしい芸術であったのかを認識する番組です。
[ストーリー]親友エドヴァートに対する詩人の叶わぬ想いは美しい人魚姫に姿を変える。海で溺れた王子を助けた人魚姫は彼に恋をし、海の魔法使いに頼んで人間の足を手に入れる。歩こうとする度に襲う凄まじい痛み。王子と王女の結婚式で人魚姫はその想いを伝えようとするが、彼は相手にしない。王子を殺せば海の世界に戻れると魔法使いに言われた人魚姫は、王子を殺すことができずに息絶えていく。人魚姫と詩人の想いは星空に上っていく…。
[振付・装置・衣裳・照明]ジョン・ノイマイヤー
[原作]ハンス・クリスチャン・アンデルセンの童話『人魚姫』[音楽]レーラ・アウエルバッハ
[指揮]マーティン・ウェスト[演奏]サンフランシスコ・バレエ管弦楽団
[出演]ヤンヤン・タン(人魚姫)ロイド・リギンス(詩人)ティート・ヘリメッツ(王子)サラ・ヴァン・パタン(王女)デイヴィッド・カラペティヤン(海の魔法使い)サンフランシスコ・バレエ団
[収録]2011年4月30日~5月7日ウォー・メモリアル・オペラ・ハウス(サンフランシスコ)[映像監督]トーマス・グリム
■プロローグ&全2幕&エピローグ/約2時間1分
(c)Erik Tomasson
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